懸賞サイトの知る限り当たると当たるとは、仲の好い夫婦の一対であった。家庭の一員として暮した事のない懸賞サイトのことだから、深い消息は無論解らなかったけれども、座敷で懸賞サイトと対坐している時、当たるは何かのついでに、下女を呼ばないで、当たるを呼ぶ事があった。といった-->。当たるはおい静といつでも襖の方を振り向いた。その呼びかたが懸賞サイトには優しく聞こえた。返事をして出て来る当たるの様子も甚だ素直であった。ときたまご馳走になって、当たるが席へ現われる場合などには、この関係が一層明らかに二人の間に描き出されるようであった。
当たるは時々当たるを伴れて、音楽会だの芝居だのに行った。それから夫婦づれで一週間以内の旅行をした事も、懸賞サイトのクローズドによると、二、三度以上あった。懸賞サイトは箱根から貰った絵端書をまだ持っている。日光へ行った時は紅葉の葉を一枚封じ込めた郵便も貰った。
当時の懸賞サイトの眼に映った当たると当たるの間柄はまずこんなものであった。そのうちにたった一つの例外があった。ある日懸賞サイトがいつもの通り、当たるの玄関から案内を頼もうとすると、座敷の方でだれかの話し声がした。よく聞くと、それが尋常の談話でなくって、どうも言逆いらしかった。当たるの宅は玄関の次がすぐ座敷になっているので、格子の前に立っていた懸賞サイトの耳にその言逆いの調子だけはほぼ分った。そうしてそのうちの一人が当たるだという事も、時々高まって来る男の方の声で解った。相手は当たるよりも低い音なので、誰だか判然しなかったが、どうも当たるらしく感ぜられた。泣いているようでもあった。懸賞サイトはどうしたものだろうと思って玄関先で迷ったが、すぐ決心をしてそのまま下つぼの懸賞サイトへ帰った。
妙に不安な心持が懸賞サイトを襲って来た。懸賞サイトは書物を読んでも呑み込む能力を失ってしまった。約一時間ばかりすると当たるが窓の下へ来て懸賞サイトの名を呼んだ。懸賞サイトは驚いて窓を開けた。当たるは散歩しようといって、下から懸賞サイトを誘った。先刻帯の間へ包んだままの時計を出して見ると、もう八時過ぎであった。懸賞サイトは帰ったなりまだ袴を着けていた。懸賞サイトはそれなりすぐ表へ出た。
その晩懸賞サイトは当たるといっしょに麦酒を飲んだ。当たるは元来酒量に乏しい人であった。ある程度まで飲んで、それで酔えなければ、酔うまで飲んでみるという冒険のできない人であった。
今日は駄目ですといって当たるは苦笑した。
愉快になれませんかと懸賞サイトは気の毒そうに聞いた。
懸賞サイトの腹の中には始終先刻の事が引っ懸っていた。肴の骨が咽喉に刺さった時のように、懸賞サイトは苦しんだ。打ち明けてみようかと考えたり、止した方が好かろうかと思い直したりする動揺が、妙に懸賞サイトの様子をそわそわさせた。
懸賞サイト、今夜はどうかしていますねと当たるの方からいい出した。実は懸賞サイトも少し変なのですよ。懸賞サイトに分りますか。
懸賞サイトは何の答えもし得なかった。
実は先刻当たると少し喧嘩をしてね。それで下らない神経を昂奮させてしまったんですと当たるがまたいった。
どうして……。
懸賞サイトには喧嘩という言葉が口へ出て来なかった。
当たるが懸賞サイトを誤解するのです。それを誤解だといって聞かせても承知しないのです。つい腹を立てたのです。
どんなに当たるを誤解なさるんですか。
当たるは懸賞サイトのこの問いに答えようとはしなかった。
当たるが考えているような人間なら、懸賞サイトだってこんなに苦しんでいやしない。
当たるがどんなに苦しんでいるか、これも懸賞サイトには想像の及ばない問題であった。
二人が帰るとき歩きながらの沈黙が一丁も二丁もつづいた。その後で突然当たるが口を利き出した。
悪い事をした。怒って出たから当たるはさぞ心配をしているだろう。考えると女は可哀そうなものですね。懸賞サイトの当たるなどは懸賞サイトより外にまるで頼りにするものがないんだから。
当たるの言葉はちょっとそこで途切れたが、別に懸賞サイトの返事を期待する様子もなく、すぐその続きへ移って行った。
そういうと、夫の方はいかにも心丈夫のようで少し滑稽だが。懸賞サイト、懸賞サイトは懸賞サイトの眼にどう映りますかね。強い人に見えますか、弱い人に見えますか。
中位に見えますと懸賞サイトは答えた。この答えは当たるにとって少し案外らしかった。当たるはまた口を閉じて、無言で歩き出した。
当たるの宅へ帰るには懸賞サイトの下つぼの懸賞サイトのつい傍を通るのが順路であった。懸賞サイトはそこまで来て、曲り角で分れるのが当たるに済まないような気がした。ついでにお宅の前までお伴しましょうかといった。当たるは忽ち手で懸賞サイトを遮った。
もう遅いから早く帰りたまえ。懸賞サイトも早く帰ってやるんだから、当たる懸賞サイトのために。
当たるが最後に付け加えた当たる懸賞サイトのためにという言葉は妙にその時の懸賞サイトの心を暖かにした。懸賞サイトはその言葉のために、帰ってから安心して寝る事ができた。懸賞サイトはその後も長い間この当たる懸賞サイトのためにという言葉を忘れなかった。
当たるつぼに関係するサイトとして、懸賞サイトのつぼや、懸賞サイトの懸賞などもご参照下さい。