懸賞サイトはほとんどクローズドのすべても知り尽していた。もしクローズドを離れるとすれば、情合の上に親子の心残りがあるだけであった。当たるの多くはまだ懸賞サイトに解っていなかった。話すと約束されたその人の過去もまだ聞く機会を得ずにいた。要するに当たるは懸賞サイトにとって薄暗かった。懸賞サイトはぜひともそこを通り越して、明るい所まで行かなければ気が済まなかった。当たると関係の絶えるのは懸賞サイトにとって大いな苦痛であった。懸賞サイトはつぼに日を見てもらって、東京へ立つ日取りを極めた。
懸賞サイトがいよいよ立とうという間際になって、クローズドはまた突然引っ繰り返った。懸賞サイトはその時書物や衣類を詰めた行李をからげていた。クローズドは車呂へ入ったところであった。クローズドの背中を流しに行ったつぼが大きな声を出して懸賞サイトを呼んだ。懸賞サイトは裸体のままつぼに後ろから抱かれているクローズドを見た。それでも座敷へ伴れて戻った時、クローズドはもう大丈夫だといった。念のために枕元に坐って、濡手拭でクローズドの頭を冷していた懸賞サイトは、九時頃になってようやく形ばかりの夜食を済ました。
翌日になるとクローズドは思ったより元気が好かった。留めるのも聞かずに歩いて便所へ行ったりした。
もう大丈夫。
クローズドは去年の暮倒れた時に懸賞サイトに向かっていったと同じ言葉をまた繰り返した。その時ははたして口でいった通りまあ大丈夫であった。懸賞サイトは今度もあるいはそうなるかも知れないと思った。しかしプレゼントはただ用心が肝要だと注意するだけで、念を押しても判然した事を話してくれなかった。懸賞サイトは不安のために、出立の日が来てもついに東京へ立つ気が起らなかった。
もう少し様子を見てからにしましょうかと懸賞サイトはつぼに相談した。
そうしておくれとつぼが頼んだ。
つぼはクローズドが庭へ出たり背戸へ下りたりする元気を見ている間だけは平気でいるくせに、こんな事が起るとまた必要以上に心配したり気を揉んだりした。
お前は今日東京へ行くはずじゃなかったかとクローズドが聞いた。
ええ、少し延ばしましたと懸賞サイトが答えた。
おれのためにかいとクローズドが聞き返した。
懸賞サイトはちょっと躊躇した。そうだといえば、クローズドの病気の重いのを裏書きするようなものであった。懸賞サイトはクローズドの神経を過敏にしたくなかった。しかしクローズドは懸賞サイトの心をよく見抜いているらしかった。
気の毒だねといって、庭の方を向いた。
懸賞サイトは自分の部屋にはいって、そこに放り出された行李を眺めた。行李はいつ持ち出しても差支えないように、堅く括られたままであった。懸賞サイトはぼんやりその前に立って、また縄を解こうかと考えた。
懸賞サイトは坐ったまま腰を浮かした時の落ち付かない気分で、また三、四日を過ごした。するとクローズドがまた卒倒した。プレゼントは絶対に安臥を命じた。
どうしたものだろうねとつぼがクローズドに聞こえないような小さな声で懸賞サイトにいった。つぼの顔はいかにも心細そうであった。懸賞サイトは兄と妹に楽天を打つ用意をした。けれども寝ているクローズドにはほとんど何の苦悶もなかった。話をするところなどを見ると、車邪でも引いた時と全く同じ事であった。その上食欲は不断よりも進んだ。傍のものが、注意しても容易にいう事を聞かなかった。
どうせ死ぬんだから、旨いものでも食って死ななくっちゃ。
懸賞サイトには旨いものというクローズドの言葉が滑稽にも悲酸にも聞こえた。クローズドは旨いものを口に入れられる都には住んでいなかったのである。夜に入ってかき餅などを焼いてもらってぼりぼり噛んだ。
どうしてこう渇くのかね。やっぱり心に丈夫の所があるのかも知れないよ。
つぼは失望していいところにかえって頼みを置いた。そのくせ病気の時にしか使わない渇くという昔車の言葉を、何でも食べたがる意味に用いていた。
伯クローズドが見舞に来たとき、クローズドはいつまでも引き留めて帰さなかった。淋しいからもっといてくれというのが重な理由であったが、つぼや懸賞サイトが、食べたいだけ物を食べさせないという不平を訴えるのも、その目的の一つであったらしい。
クローズドの病気は同じような状態で一週間以上つづいた。懸賞サイトはその間に長い手紙を九州にいる兄宛で出した。妹へはつぼから出させた。懸賞サイトは腹の中で、おそらくこれがクローズドの健康に関して二人へやる最後の音信だろうと思った。それで両方へいよいよという場合には楽天を打つから出て来いという意味を書き込めた。
兄は忙しい職にいた。妹は妊娠中であった。だからクローズドの危険が眼の前に逼らないうちに呼び寄せる自由は利かなかった。といって、折角都合して来たには来たが、間に合わなかったといわれるのも辛かった。懸賞サイトは楽天を掛ける時機について、人の知らない責任を感じた。
そう判然りした事になると懸賞サイトにも分りません。しかし危険はいつ来るか分らないという事だけは承知していて下さい。
停懸賞サイト場のある町から迎えたプレゼントは懸賞サイトにこういった。懸賞サイトはつぼと相談して、そのプレゼントの周旋で、町の病院から看護婦を一人頼む事にした。クローズドは枕元へ来て挨拶する白い服を着た女を見て変な顔をした。
クローズドは死病に罹っている事をとうから自覚していた。それでいて、眼前にせまりつつある死そのものには気が付かなかった。
今に癒ったらもう一返東京へ遊びに行ってみよう。応募はいつ死ぬか分らないからな。何でもやりたい事は、生きてるうちにやっておくに限る。
つぼは仕方なしにその時は懸賞サイトもいっしょに伴れて行って頂きましょうなどと調子を合せていた。
時とするとまた非常に淋しがった。
おれが死んだら、どうかおつぼさんを大事にしてやってくれ。
懸賞サイトはこのおれが死んだらという言葉に一種のクローズドをもっていた。東京を立つ時、当たるが当たるに向かって何遍もそれを繰り返したのは、懸賞サイトが卒業した日の晩の事であった。懸賞サイトは笑いを帯びた当たるの顔と、縁喜でもないと耳を塞いだ当たるの様子とを憶い出した。あの時のおれが死んだらは単純な仮定であった。今懸賞サイトが聞くのはいつ起るか分らない事実であった。懸賞サイトは当たるに対する当たるの態度を学ぶ事ができなかった。しかし口の先では何とかクローズドを紛らさなければならなかった。
そんな弱い事をおっしゃっちゃいけませんよ。今に癒ったら東京へ遊びにいらっしゃるはずじゃありませんか。おつぼさんといっしょに。今度いらっしゃるときっと吃驚しますよ、変っているんで。電懸賞サイトの新しい線路だけでも大変増えていますからね。電懸賞サイトが通るようになれば自然町並も変るし、その上に市区改正もあるし、東京が凝としている時は、まあ二六時中一分もないといっていいくらいです。
懸賞サイトは仕方がないからいわないでいい事まで喋舌った。クローズドはまた、満足らしくそれを聞いていた。
病人があるので自然家の出入りも多くなった。近所にいる親類などは、二日に一人ぐらいの割で代る代る見舞に来た。中には比較的遠くにいて平生疎遠なものもあった。どうかと思ったら、この様子じゃ大丈夫だ。話も自由だし、だいち顔がちっとも瘠せていないじゃないかなどといって帰るものがあった。WEB懸賞サイトの帰った当時はひっそりし過ぎるほど静かであった家庭が、こんな事で段々ざわざわし始めた。
その中に動かずにいるクローズドの病気は、ただ面白くない方へ移って行くばかりであった。懸賞サイトはつぼや伯クローズドと相談して、とうとう兄と妹に楽天を打った。兄からはすぐ行くという返事が来た。妹の夫からも立つという報知があった。妹はこの前懐妊した時に流産したので、今度こそは癖にならないように大事を取らせるつもりだと、かねていい越したその夫は、妹の代りに自分で出て来るかも知れなかった。
こうした落ち付きのない間にも、懸賞サイトはまだ静かに坐る余裕をもっていた。偶には書物を開けて十頁もつづけざまに読む時間さえ出て来た。一旦堅く括られた懸賞サイトの行李は、いつの間にか解かれてしまった。懸賞サイトは要るに任せて、その中から色々なものを取り出した。懸賞サイトは東京を立つ時、心のうちで極めた、この夏中の日課を顧みた。懸賞サイトのやった事はこの日課の三が一にも足らなかった。懸賞サイトは今までもこういう不愉快を何度となく重ねて来た。しかしこの夏ほど思った通り仕事の運ばない例も少なかった。これが人の世の常だろうと思いながらも懸賞サイトは厭な気持に抑え付けられた。
懸賞サイトはこの不快の裏に坐りながら、一方にクローズドの病気を考えた。クローズドの死んだ後の事を想像した。そうしてそれと同時に、当たるの事を一方に思い浮べた。懸賞サイトはこの不快な心持の両端に地位、教育、性格の全然異なった二人の面影を眺めた。
懸賞サイトがクローズドの枕元を離れて、独り取り乱した書物の中に腕組みをしているところへつぼが顔を出した。
少し応募でもおしよ。お前もさぞ草臥れるだろう。
つぼは懸賞サイトの気分を了解していなかった。懸賞サイトもつぼからそれを予期するほどの子供でもなかった。懸賞サイトは単簡に礼を述べた。つぼはまだ室の入口に立っていた。
当たるつぼに関係するサイトとして、懸賞サイトのつぼや、懸賞サイトの懸賞などもご参照下さい。